骨盤位の分娩管理 平嶋昇(医)社団 昇龍会 Women’s Clinic ひらしま産婦人科 理事長)
はじめに
わたしは、近年骨盤位は帝王切開の傾向が強く、このままでは、産科学は滅びてしまうと危惧する者である。
本来、帝王切開の母体へのリスク、次回妊娠のリスクを考えれば経膣分娩が望ましい。
前置胎盤・胎盤早期剥離などは帝王切開が必須であるが、骨盤位は産科技術の習熟により、経膣分娩できる
分野である。
以下、御茶ノ水浜田病院勤務15年間。開業以来28年間の骨盤位の経験から、母子ともに安全な骨盤位分娩管理を、
特にオバタメトロ(以下メトロ)についての事例を中心に述べてみたい。
当院28年間の骨盤位統計(1986~2014)
分娩総数 14287例、骨盤位数 469例、骨盤位経膣分娩数 343例、
骨盤位トライアル率 81%(378/469)、骨盤位トライアル成功率 91%(343/378)
メトロトライアル率 70%(241/378)、メトロトライアル成功率 90% (216/241)
初産臀位トライアル成功率 90%(130/140)初産臀位メトロトライアル成功率93%
(89/96)経産臀位トライアル成功率100%(93/93)
死産1例(1987年以来なし)臍帯脱出4例(全て足位2000年以来なし)。
蘇生挿管なし、後続児頭娩出に鉗子を必要とする症例なし。
・最近7年間
75例の臍帯動脈血ガス分析pH値
pH<7.0以下 症例なし。
第2度仮死 0例、第1度仮死 4例
・最近10年間
117例の後続児頭娩出時間 10秒以内113例(97%)、最長20秒1例
<メトロの利点>
骨盤位分娩では、娩出時に子宮口が全開大、強力な陣痛が存在することが最も重要である。
メトロの使用によりオキシトシンを使用せず、軟産道を熟化させ、前早期破水、早期臍帯脱出を防ぎ、子宮口は
ほぼ全開大になる。
骨盤位経膣分娩では娩出時に不測の事態が起こることもある。しかしこの時も全開大であれば、急速遂娩操作が
容易である。
特に臀部の吸引では児の障害などなく安全である。
<メトロの副作用>
臍帯下垂、臍帯脱出である。
足位の場合:3例臍帯脱出を経験したが、膣式エコーにて臍帯下垂を除外して以来、臍帯脱出の症例はない。
臀位、複臀位の場合では頭位に比してメトロ注入量300~400mlと多いにも関わらず脱出はなく、
メトロ使用238例中1例もない。
まとめ
児のリスクばかり強調され骨盤位経膣分娩は激減したが、いかにして児に障害がなく経膣分娩するかが
産科医の使命である。
- 骨盤位経膣分娩可能か否か、症例を厳密に選択することが最重要である。
(CPDは勿論であるが、特に臍帯下垂、反屈位は除外) - メトロを使用し、子宮口を全開大にし、娩出直前に強力陣痛(オキシトシン1単位静注)により、肩甲上肢解出・
後続児頭娩出は安全に娩出出来る。 - 不測の事態に備え、娩出期を日中に誘導する。
- 反屈位を除外することにより、過去15年間後続児頭娩出困難例はなかった。
分娩は頭位より優位な点もある。
臀位であれば頭蓋内出血のリスクなく吸引(12例施行)を行えること、
アプガースコア―が、1分後不良であっても、頭位と違って酸欠状態が短時間であるため、5分後には良好になる。)
おわりに
骨盤位に限らず全ての出産には、児のリスクをともなう。産科医はいかにしてリスクを
軽減し経膣分娩することが最大の責務である。それが産科技術の進歩にも繋がる。
私の43年間の骨盤位経験から、(特にオバタメトロ使用)から、児のリスクを最小限に留める骨盤位経膣分娩は
可能と考える。
日本産婦人科医会報 平成26年11月号 掲載
付記: 私が、産科医生命を掛けて取り組んできた、骨盤位経膣分娩は、保険点数3800点と
何年間も据えおかれたままである。
これでは、若い産科医が高度な産科技術を習得しようという意欲をもつだろうか。
幸い28年間1例の訴訟も抱えずやってこられたから成し得たことかもしれない。
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