妊娠すると女性の体は、劇的に変化し、母親になる準備をする。そして出産を終えると、またも女性の体は変化していく。母乳が出るようになるのも、その変化のひとつ。そんな出産後の過ごし方や注意点に触れていこう。
*母乳が出るかどうかが産後の最大の悩み
出産を終えて、無事に赤ちゃんが生まれたから一安心というわけではありません。妊娠しているときより、産後は育児が始まり、さらにお母さんは大変なのです。子育ては肉体的にも精神的にも負担がかかるものです。産後のお母さんがもっとも心配するのは母乳の出具合です。ほとんどのお母さんは母乳で育てたいと思っているので、その関心度は非常に高いのです。
ここでまず母乳が出る仕組みについてお話しましょう。妊娠すると胎盤からエストロゲン・プロゲステロンが大量に出て、乳房を発達させます。これらのホルモンは乳腺の発育を促し、それと同時に、脳の下垂体からの乳汁分泌ホルモン、プロラクチンの分泌をも抑制しています。しかし、出産して胎盤が出てしまうと急激にエストロゲン・プロゲステロンの量が減少し、その抑制が外れてプロラクチンの分泌が開始され、母乳が出るのです。
*おっぱいを吸わせて母乳の分泌と子宮収縮を促す
産後は、赤ちゃんにおっぱいを吸わせて、乳頭を刺激してあげることが大切です。それというのも刺激を受けると脳から母乳の分泌を促すオキシトシン(射乳作用がある)とプロラクチン(催乳作用がある)が出るからです。このオキシトシンは子宮収縮にも役立つホルモンでもあります。子宮の戻りがよくないと悪露(産後のおりもの)がたまりやすく、そこから感染を引き起こす場合もあります。子宮の収縮によって胎盤の残りなどをすべて出してしまわないといけないのです。特に生まれた直後から2時間までの母と子の接触(おっぱいを吸わせる、だっこする、手足をさわる)、何よりも一緒にいて、赤ちゃんの顔をながめているだけでも、これらは母子の絆の始まりであり、今後の母乳育児の成功と、何よりも母児間のよい関係を作る最も大切なスタートとなるのです。ですから、当院ではこの時期を母児一緒に過ごしています。浜田病院勤務時代に子宮収縮剤(麦角剤)投与は、乳汁分泌を抑制するばかりでなく、子宮収縮効果も変わりないとの結論を得たので、当院では、ルーチンに子宮収縮剤を投与していません。全ての薬剤は母乳を介して赤ちゃんに移行するので、母親に医学的適応がない限り、薬剤は投与すべきでないと考えています。悪露は産後2〜3日では赤、10日ごろで褐色、その後4週間までには黄色、1〜2か月には白いのですが、これに当てはまらないようなら、早めに産婦人科で診察を受けることをおすすめします。
*母乳のメリットとは
出産して3〜6日ごろまでに、半透明でやや黄色味がかった初乳が出ます。これは、それ以降の成乳に比べて、感染防止の免疫物質IgAなどを多量に含んでいます。新生児はIgAを持っておらず、母乳以外から摂取することはできません。そのほか、消化しやすく栄養価の高い蛋白質、ミネラルも多く含まれているので、赤ちゃんにとって初乳はとても大事なものです。
最近はミルクも母乳に近いものになってきました。しかし母乳には、IgAによって感染から赤ちゃんを守ってくれたり、脂肪吸収によいリパーゼや、乳糖が多かったり、そして何よりもおっぱいをあげることで母児間のスキンシップもとれることが最大の利点であります。その反面、母乳にはビタミンKが少ないため、不足すると頭蓋内出血を起こすこともあるのです。これは入院時と1か月検診のときに、ビタミンKのシロップを飲ませることで解決できます。
そのほか母乳に移行する環境汚染、ダイオキシンが問題になっています。環境ホルモン問題に熱心なドイツでは4か月以降は人工乳に切り替えるように指導していましたが、危険はないとし、これを中止しています。最も影響を受けやすい胎児、新生児、乳児のためにも、環境汚染を一刻も早く解決する事が大切です。
母乳は産後すぐに出るものでなく、産後4〜5日ごろから出始め、1週間ごろにやっと確立します。だから、出ないからとすぐに諦めず、根気よくおっぱいを吸わせることが大事です。
|