出産は、もはや女性だけのものではない。ラマーズ法が広く知れ渡った昨今では、夫も一緒に、出産へ立ち合う夫婦も多くなっている。立ち合い出産における夫の心構えとは?
*アメリカの留学先で出会った「ラマーズ法」
何事も便利になった現代の生活。そこでは、あまり肉体的な苦労というのがありません。そんな中で、出産は、自分から選んだ初めての肉体的な苦痛ともいえるでしょう。
出産時の痛みに耐えられない、痛みなく子供を産めたら…ということから、私が留学した当時のアメリカでは、麻酔を使った無痛分娩が盛んでした。全例サドルブロック(背椎麻酔の一種の部分麻酔法)、笑気による吸入麻酔併用、そしてまた全例鉗子分娩には、驚きました。
しかし、これは医師にコントロールされた出産のように私には思えました。
その後、デトロイト郊外にある病院で出会った出産法は、夫が立ち合い、陣痛で苦しむ妻の腰をマッサージし、出産を共に喜ぶ「ラマーズ法」でした。この光景は、私に鮮烈な印象を与えました。日本ではまだあまり行われていなかったラマーズ法をいち早く取り入れ、夫の立ち合いも積極的に指導したいと思いました。そして、これが後に当院開業以来12年間の理念となっているのです。
*落ち着いた環境作りと妊婦さんの心の安定が安産につながる
ラマーズ法は、妊婦さんだけでなく、夫、妊婦の母親など、信頼できる人が立ち合うことで、不安や緊張を和らげ、安心して出産ができます。妊婦さんが強度の不安や緊張にあると、自律神経系の交感神経が興奮し、子宮や胎盤への血流が減り、胎児仮死、子宮の収縮も弱まり難産になります。反対に落ち着いた状態にあれば、睡眠時に働く副交感神経が陣痛を促し、出産をスムーズに行うことができるのです。
これについておもしろいデータがありますのでご紹介しましょう。当院での432例の自然分娩における陣痛の始まる時刻を1日を24時間に分け1時間ごとに調べたところ、午前2〜3時の間が38人と最も多く、また午前0〜6時の間は全体の40・5%を占めています。陣痛の発来時刻は圧倒的に夜中が多いのです。つまり睡眠中に働く副交感神経が優位になったときに陣痛が起きやすいということなのです。
良い陣痛は良い出産を促します。だから、夫が立ち合い、妊婦さんが安心して産めるような落ち着いた状態を、作ってあげることが大切なのです。
*夫の立ち合いについては夫婦での話し合いを
夫が出産に立ち合うことで、夫婦としての絆が深くなったり、父親としての自覚が生まれ、育児に積極的になるようです。しかし、その反面、大量の出血を伴った出産シーンを目のあたりにしてショックを受ける男性も少なくありません。もし、出産に立ち合うのに抵抗があるというなら、無理強いはしないほうがいいでしょう。そのときのショックからセックスレスになり、ついには離婚…というようなこともあるからです。立ち合いについては、事前に夫婦でよく話し合う必要があるでしょう。立ち合いは、間際まで妻に寄り添い、誕生を分娩室の外で待つだけでもいいのです。赤ちゃんの声を壁越しに聞いて、わが子の存在を実感することが、その後の育児へとつながります。
出産は人生の最大イベントです。仕事に追われ忙しいのはわかりますが、こんなときくらいは家庭を優先してみてください。そして、喜びのフィナーレを夫婦ふたりで迎えてもらいたいですね。
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