無事に出産を終えた母親にとって、最も心配なことは、母乳が出るか出ないか。母乳が出ることは、赤ちゃんのためだけでなく、母親自身の産後の回復をも担っているらしい。
*母乳を与えることで生まれる母と子の絆
母乳は赤ちゃんの成長と発育のための栄養として重要なだけじゃなく、母と子の絆を強めるという役割もあります。また、母乳には免疫物質が含まれているため(特に初乳に多い)、新生児の感染防御の面でも重要な役割を果たしています。
赤ちゃんがおっぱいを吸うと乳頭が刺激され、オキシトシンやプロラクチンというホルモンが分泌し、母乳が出ます。これらのホルモンは、自律神経の中枢がある視床下部と密接に関係していて、赤ちゃんを無事に生んだ喜びで静かに二人で幸福な気分になって、副交感神経優位になるとよく分泌されると思われます。オキシトシンは、陣痛を起こすホルモンで、子宮収縮を起こし、産後のおろの排泄を促し、一石二鳥です。おっぱいは、脳と子宮をつないでいる重要な中継点なのです。
妊娠中は、乳頭異常(陥没・扁平)の矯正や乳頭マッサージを行い、鍛えておく必要があります。急に刺激を与えると、乳頭亀裂を起こし、そこから感染し乳線炎になることもあります。そして産後は、定期的に母乳を出して、管理することが大切です。いつも母乳を出し切って、空にしておきましょう。母乳が残ると乳房うっ積を起こし、循環不全になって、その内に母乳が出なくなってしまいます。
*母乳のデメリット
母乳は赤ちゃんの発育には欠かせないもので、粉ミルクに比べて経済的です。しかし、母乳は完全無欠ではありません。
母乳はビタミンKの含有率が低く、母乳だけでは必要な量を補えません。ビタミンKが不足すると、頭蓋内出血を起こし、死亡する可能性があります。これはビタミンKのシロップを飲ませることで解決しています。 母親が飲んだ薬が母乳によって赤ちゃんへ移行します。心配なら、医師に相談してから服用するようにしてください。また、多量の酒、タバコ、最近騒がれている環境ホルモンも母乳から赤ちゃんへ移行します。
*母乳を出すために産前から準備が必要
哺乳類の母親は、子供が生まれると自然に母乳が作られます。しかし人間は母乳を出すために準備が必要です。その違いは、人間以外の哺乳類は4足歩行であるということです。4つ足では、乳房は直円錐形にたれており、均一に重力・張力が加わります。そして乳房全体の動きは自然の基底部マッサージとなって、乳房の血液循環を促し、乳房の発育、発達、乳房のうっ積の予防、母乳の分泌促進となったようです。さらに裸であるため、乳首への外的刺激は乳頭を強靭にしているのです。
人間は乳房は直円錐形でなく、乳房に加わる力は不均衡です。そのうえ、着衣により乳房は固定、圧迫され、乳房の発育や発達を阻害しています。そのため、さまざまな乳房トラブルを引き起こしているようです。
当院では、母乳を出すために、産前からの乳頭マッサージ、そして産後はSMC(自己乳房管理)方式によるマッサージと手入れを推奨しています。
しかし、そうした努力をしていても母乳が出ない人もいます。現在ではいい粉ミルクもありますので、母乳が出ないからといって落ち込むのは、かえってストレスを生み、母乳が出なくなります。そういった思いは育児にもよくありません。出なくても大丈夫というゆったりとした気持ち、十分な水分と睡眠が母乳を出す上で大切です。
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